私たちJLCAは、ベスト・ファーザー賞 in 関西、ベスト・プロデュース賞、日本生活文化フォーラムを通じて、豊かで健全な社会づくりに寄与することを目的に活動いたします。

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2019年度 第13回 ベスト・ファーザー賞 in 関西

特別部門
アンドレス・イニエスタ

〝家族〟を大切にする背景

ご本人のインスタグラムより引用
 「まず、日本にこのような賞があること自体を知らなかったので、受賞の知らせを聞いてとても驚いています。これまで獲ってきたスポーツの賞と違い、僕個人の生活のあり方が評価された賞だと認識しており、自分にとっても父という役割や存在は大事だと思うので、とてもうれしく思っています」。

 スペインにも父の日はあり、一般的には日本と同じように、子どもたちがお父さんの絵を描いてプレゼントしたり、一緒に食事をしたりして祝うという。「子どもの頃は僕も絵を描いて渡していましたが、あまり絵が得意じゃなかったので(笑)、大人になった今はプレゼントをあげるようにしています」。

 イニエスタさんはプロサッカーの道に進むため、家族の元を離れ、ラ・マシア(FCバルセロナ下部組織)に加入する。ピッチではすぐに注目される存在だったが、当時はまだ12歳。家族恋しさに何度も涙し、息子をプロサッカー選手にするのが夢だった父親でさえ、連れて帰ろうとしたことがある。それを、母親は身を切るような思いで止めたという。それほどイニエスタさんの家族の絆は深かった。

 「12歳という若さで両親や妹と別れての生活は、苦しく難しい時期でした。しかし、僕自身がより早く成長する環境になったし、離れて生活したことで家族との繋がりはより強くなり、絆は深まったと思います」。

 若干18歳でプロデビューを果たして以来、FCバルセロナ、そしてスペイン代表と、常に中心選手としてチームに貢献し、数々の栄冠を手に入れ、サッカー史に名を刻む選手となった〝世界のイニエスタ〟が、2018年にヴィッセル神戸に移籍。単身海外に移籍するスポーツ選手も多い中、イニエスタさんは奥様と3人の子どもを伴っての来日に、一部では驚きの声もあったようだ。

 「僕がバルセロナに入った当時、経済的にも父母妹と離れて暮らさざるを得なかった状況と、今34歳で僕自身の家族を持っている状況とは比較しづらいですが、やはり基本的には〝家族〟とはどこに行くのも一緒であるべきだと思っています。もちろんこれからもずっと一緒に過ごしていくつもりなので、家族を伴って来日することは難しい決断ではありませんでした」と言い切った。きっとイニエスタさんにとって〝当然の決断〟は、若き日に家族と離れて暮らした孤独が背景にあったのかもしれない。


個性を汲み取りアドバイス
 イニエスタさんをサッカーに導いたのは、常に師であり、コーチだったという彼の父親の存在。父は息子がプロサッカー選手になることを夢見て、息子はその期待に応え、親子はその夢を叶えた。今、父親となったイニエスタさん自身が、お子さまたちに何を求めるか尋ねてみた。「僕が子どもたちに望むのは、良い人に育ってほしいということ。それに勝るものはありません。彼らが良い心を持つこと、他人に対する敬意を持つこと、そして自分の価値を知っている人に育ってほしいと願っています」。

 父親ならば特に女の子が可愛くて仕方ないのでは?と質問をしてみた。少し微笑んだ後に、「女の子と男の子という違いはあるけれど、基本的には自分の子どもはみんな同じように可愛いですよ(笑)。それぞれの個性をしっかり理解してあげるように心がけていて、例えば、何かを教えてあげる時に同じ言い方をしても子どもによって伝わり方は違う。その子にあった教え方、伝え方を心がけ、親としてそれぞれの個性を汲み取るように気をつけていますね」。すでに家庭内では一足先に名コーチのような存在なのかもしれない。


奥様への感謝
 妻のアンナさんとの役割分担については、「特に決めごとはないです。でも朝は練習に行っていることが多いので、妻が一番下の子の世話をして幼稚園に連れて行ったり、午後は僕が迎えに行ったり。その時々の状況で、妻と2人で協力しながら、なんでもやっています」。とにかく出来る限り家族みんなで出かけ、何をするにも一緒の時間を作ることを心がけているそうだ。

 日本では夫婦間のパワーバランスで、女性の方が強くなる傾向があるけれどイニエスタさんのご家庭はどうですか?と意地悪な質問をすると、笑みをこぼしながら「それは世界共通だと思います(笑)。ただ僕は妻のアンナに出会えたことはラッキーですし、彼女と築き上げた関係性や、一緒に成長してきた道のりを振り返ると、本当に自分は幸せ者だと感じています」と、共に歩んできたパートナーへの感謝の思いを話してくれた。


父親として、人生の先輩として
 少し気は早いが、いつか子ども達が親元を離れていくことを想像したことはありますか?と聞いてみた。
「いつか進学や就職、結婚などで家を出て行くことを考えれば寂しいでしょうね。きっと親ならばみんな同じで、子どもたちといつまでも一緒にいたいでしょ?だからこそ親として子どもたちにしてあげられることは、彼らが自ら決断をしなければいけない時のために道を整え、そのための準備をしておく。それが親の務めだと思います」。

 理想の父親とは?そしてどんな父親であり続けたいと思っているのか。「子どもたちが自分を見て学べる鏡のような存在であり、彼らが何かを必要としているときには、その場にいて力を貸してあげられるような存在が理想です。そして物理的なものだけではなく、美しい心であったり、生きていく中で本当に大切なものは何なのか、そういった価値観を、父親として、人生の先輩として伝え続けてあげたい思っています」。

 終始穏やかな優しい口調で語り、常にまっすぐこちらの目を見てインタビューに応じてくれたイニエスタさん。きっとその優しく、澄んだ、彼の心を映すようなあの眼差しで、これから先もずっと温かく大切な家族を見守っていくことだろう。


Profile アンドレス・イニエスタ Andrés Iniesta Luján

1984年生まれ、スペイン・フエンテアルビージャ出身。プロサッカー選手。ポジションはMF(ミッド・フィルダー)。12歳でバルセロナユースに入団。2002年10月、チャンピオンズリーグでトップデビューを果たす。以降、チャンピオンズリーグ制覇(4回)、リーグ・エスパニョーラ優勝(9回)、FIFAクラブワールドカップ制覇(3回)と数々のビッグタイトルをチームにもたらしてきた。スペイン代表としては欧州を2度制覇し、2010年の南アフリカワールドカップでは決勝点を挙げ、スペインの初優勝に貢献。最優秀選手賞など個人タイトルも多数受賞。2018年5月、FCバルセロナからヴィッセル神戸に移籍を発表。同年7月、Jリーグ初出場。子どもは長女、長男、次女の一男二女。